私だって 生まれた時から板金職人の妻だった訳じゃないのよ。
現場が好きだ、現場はおもしろいって いつも言ってるけど
でも正直 楽しいことばかりじゃないの。
どんなに好きな相手でも その人にちょっと文句言いたくなることってなーい?
私 今、ちょうど そんな感じ。
色々と言っちゃいたい感じ。
じゃあ思い切って言っちゃうわね。
私だって 生まれた時から現場作業してたわけじゃないのよ。
ちょっとさかのぼって 私の歴史にお付き合いくださる?
自分のことだけしてりゃいい 事務員時代
実家の両親は ことあるごとに「女性も仕事を持つべきだ」
「女性の仕事といえば事務職だ」
「資格を持った事務職がいいぞ」と ささやいてきた。
小さな私はそれを信じたわよね。
そろばんなんか習っちゃったりしてさ。
20代の前半は輸入建材の商社に勤め(事務職)
20代後半は建材メーカーに勤め(事務職)
29で結婚して もちろん事務を続けようと思ってたわよ。
そしたら何なの!?
悪いものが体に見つかって 治した方がいいねってなったのよ。
それで 勤めてた会社辞めちゃった。
いい会社だったわよ。
残業が多かったけど。
当時 基礎パッキンがバンバン売れて 無借金経営だって言ってたし
何より事務の先輩と上司がすばらしい人だった。
集中して事務だけに取り組める環境で それが私の性格にピタッと当てはまって
日々 やりがいを感じてたわね。
所属部署の成績も良かったしさ。
ね、いい会社でしょ。
でも辞めちゃったのよね。
育児の大変さにビビる 母親時代
会社辞めちゃったけど そのおかげで ゆっくり休めて
元気になった私は 元気な子供を2人 授かった。
これはもうラッキーだったとしか言いようがないわね。
感謝しております。
でも育児の大変さにはビビッたわよ。
ビビらない人っているのかしら?
今はもう 下の子が小4になったから 以前ほど大変じゃないけど
小さな子供を世話する日々って、嵐の中を駆け抜けているような感覚だわよね。
幼子を育てる世の大人たちに 敬愛の念を込めて ここで一礼。
ジェットコースターの日々 自営業時代
「会社 辞めてきた」と言った次の日からすぐに
自分で工事を受けて現場に行っていたわよね。
私の話じゃないのよ 夫の話。
わたしゃあわてて 娘(1歳)を保育園(無認可)に預けて
「自営業って どうすればいいのー!!」から始めましたの。
おなかには次の子がおりまして つわって ましたがね
新しいことが始まるなーって ちょっとワクワクしたのも本音です。
ここでワクワクしちゃうのが 私のイケナイ性分なんですがね
「会社辞めるなんて聞いてないよー(怒)」とかってのはなかったんですよね。
まあ 単なる世間知らずだったんですよね。
このあと色々 痛い目にあいますから。
日焼けで老化 現場作業時代
色々とあった痛い目については また話しましょうかね。
ご要望があった時にでも。
思い出話からグッと現在に戻しましてね
きのうの話なんですけど
現場がつらいなーって思ったんですよ。
現場に着いたら 暑くて日差しが強いんです。
外壁張りだったから 1日 ずーっと 日光を全身に浴び続けてたんです。
それが つらかった。
ヘルメットが足場にガンガンぶつかることも
靴が足場にひっかかることも
汗が目に入って良く見えないことも
髪がグチャグチャになることも
仮設トイレに入って 水を流そうとしたら タンクが空っぽで流れなかったことも
いつもは全然平気なのに きのうは つらかった。
一番つらかったのは 力がうまく入らなくて
ビス打ち失敗して材料3枚ダメにしたこと。
加工済みの、横葺きの・・・
3階の足場で泣きました。
つかれた、つかれたよー と泣きました。
「もう お前は 昼飯でも買ってこい」
夫にそう言われてコンビニに行きました。
いつもはお弁当なんですけどね きのうは寝坊して作ることができず
そのことも私の気持ちを下げていました。
コンビニに入ると雑誌の表紙が目に入りましてね。
今月の「おとなのおしゃれ手帖」の石田ゆり子が私を見ています。
「あなた もっときれいにした方がいいんじゃない?」
そう言われているようで 私は眉間にシワをよせて
石田ゆり子の美しい笑顔をじっと見返します。
まあ ここでまた泣くほど乙女じゃなかったんですが
心がささくれ立ってるって自覚しましたよね。
現場作業の大変さについて
ここまで話してみたら だいぶ考えがまとまったんで
もう少し続けてもいいでしょうか?
中年女が泣くほど 何を大変だと感じているかについて。
これは現場作業がというより 自営業について言えることだと思うのですが
ひとつ乗り越えると またひとつ乗り越えなければならないものが
形を変えて 次から次へとやってくる
そのことに対応する力が私には足りない
そう駄々こねているのかもしれません。
自営業者になると決めたのは29才 結婚した時です。
それから14年がたち 43才になりました。
体も変わりましたが 考え方にも変化がありました。
それに世の中も ものすごく変わりましたしね。
現場に自分を合わせる
では 大きく捉えた大変さ、これを現場作業に限って考えてみます。
うちの顧客は設計事務所なので 施工する家が1点もの 完全オーダーメイド
ふたつと同じ現場がありません。
例えばきのうの現場のように「外壁 横葺き」と言っても
A様邸 「外壁 横葺き」と B様邸 「外壁 横葺き」とは
まったく作業が異なるのです。
まず、土地の形が違い 家の形が違い そして足場のかかり方が違います。
きのうの作業をするに当たって
たまたまそこの部位はちょっとだけ昇降しにくかったんですよね。
私は「大変だな〜」って思ってました。
ヒーヒー言って時間かけて無理やり登ったり降りたりしとりました。
それを見ていた夫はさぞかしイライラしたでしょうね。
時間内に今日のノルマ終わらんぞ!
自分で効率を考えて何とかしろよ!と。
「足場の部材を持ってきたよ。トラックの土囊袋の中にあるから 自分の足を掛けたいところに付け加えるといいよ」と教えてくれました。
優しいんですよ、うちの夫。
夫がいつも言う「現場に自分を合わせる」という言葉を思い出していました。
現場はすべてお膳立てされていて「板金屋さん はい どうぞ」となっているわけではないんですよね。
施工するための段取りには自身が施工しやすく工夫をすることから始まります。
決められた時間とお金と法規の中で イチから組み立てて 現場でおさめていくのです。
現場作業で学べること
こんな経験から 現場作業で私が学んでいるのは
きっと臨機応変な対応力なのだと思います。
規格統一されたシステムの中で決まった作業をミスなくこなす人間になるよう務めてきた私にとって
昨今の時代の流れや現場作業で求められるこの力 対応力
またの名を「だったらこうしてみたらできるんじゃない?」と考える力
もっと言えば「プランAがダメならプランBを試してみる」
これを身に付けるまで時間がかかりそうです。
いつもぶち当たるのはこの壁、なんですよね。
でも この考え方と実行力は手に入れたい。
現場で同じ失敗はしたくないし
何より 今よりもっと できることが増えれば きっと楽しい。
できないとくさるより 中年でもまだ伸びしろがあると捉えてみようかと思います。
よし、だんだん調子が上向いてきたぞー。
幸い 身近にいい師匠もいますしね。
きのうの現場作業 まとめ
最後に めんどくさい妻を持ってしまった板金職人である夫
天野直樹さんに日頃の感謝を述べて今日のところは終わりにしようと思います。
てもとは力不足でも親方がいいので キレイな外壁に仕上がりました。
この現場の動画、うまく撮れているといいなー。